総長が語る「大学制度の変革と法政大学の課題」

総長 清成忠男
総長 清成忠男

高等教育政策の転換―半世紀ぶりの大改革―

高等教育政策が大きく転換した。半世紀ぶりの大改革と言っていい。特に、設置の自由化、国立大学の法人化は、明治以来の大改革である。このうち一番進んだのが、「事前規制から事後チェックへ」の移行である。設置の自由化・準則主義化となり、あらかじめ法令で定められている要件を満たせば、設置が自由で、届け出だけで済んでしまう。その代わりに、事後的に第三者評価で教育・研究の質を保証することになる。

この四月から認証評価が制度化された。認証評価機関として予定されているのは「大学評価・学位授与機構」、私が会長を務めている「財団法人大学基準協会」、それから日本私立大学協会が準備している「財団法人私学等評価機構」の三つであり、大学の場合には七年に一度評価を受けることが義務付けられた。大学評価・学位授与機構は、一部の公立を含め国立中心に評価することになろう。また、大学基準協会は私学、特に日本私立大学連盟加盟校および大半の公立大を評価することになろう。そして、私学等評価機構は、主として日本私立大学協会の加盟校を評価することになると思われる。

もう一つの変化は、専門職大学院の制度化である。従来の研究者養成とは違うタイプの大学院であり、今後、急速に増えてくると予測される。実際、極めて多様なものが登場してきている。従って、これを事後的にどう評価するかが大きな課題となる。

例えば、今年、法政や同志社等の私立大学や国立の小樽商科大、香川大がビジネススクールを、また東京大、東北大が公共政策系の専門職大学院を開設している。変わったところでは、助産師を育成する専門職大学院まで登場している。それから、京都コンピュータ学院のウェブビジネス技術研究科や株式会社デジタルハリウッドのデジタルコンテンツ研究科なども誕生した。

次に、国公立大の法人化が、どういう効果を持つかという点である。文部科学省(以下、文科省)の国立大学に対する統制は、今まで以上に強まるだろうが、組織は従来とあまり変わらないと思われる。つまり、多くの国立大学では、従来の事務局長が副学長に納まっている。職員もそのままであり、運営費交付金という補助金も国からもらう。全く、官僚的な体質が変わっていない。財界有識者が、外部委員として経営に加わったとしても、それほど影響はない。

株式会社立の大学については、構造改革特区で千代田区に二大学ができたが、多分、全国区に広がると思う。これは、学校法人とは根本的に発想が違う。ただ、構造改革特区は国の政策であるから、文科省も対応せざるを得ない。従って、相談に応じ誘導しながら設置を認めた。

例えば、東京リーガルマインドが設置したLEC大学は、入学定員一七〇人だが科目等履修生を何千人と考えている。そこで収益を上げる。また、デジタルハリウッドの場合は、専任教員が全員ベンチャー企業の社長たちである。科目等履修生の量的な上限や専任教員の定義は、法令には規定されていない。その盲点を突かれたわけだ。こういう従来にない大学が、私学の中で競争相手として登場してきている。従って、全国区になり株式会社立の大学が増えると、いろいろな意味で影響が出てくる。むしろ、国立大学の法人化以上に問題かもしれない。

政策効果

こうした制度が変わると、大学間競争が激化することになる。特に、法人間競争になる。国立大学法人、地方独立法人法という法律に基づき設置された公立大学法人、学校法人、株式会社立といった法人間の競争になる。

いずれにしても、大学設置基準が緩和されたことにより大学の数がどんどん増えた。今、大学数は七一〇大学ある。このうち、私学は五四五大学。十八歳人口がピークの一九九二年には三八四大学だったから、この十二年間で私立大学は急激に増えた。短大の四年制化が進んだためである。また、公立大学は倍増した。

十八歳人口が減少するにもかかわらず、大学の数は大幅に増加し、入学定員も全体として増加した。従って、いずれは破綻する大学が登場してくる。大学が破綻した場合、学生を救済するセーフティネットが必要になる。今のところ破綻があまり表面化していないが、これから数年の間に多分何十校という単位で学校法人が破綻するであろう。

そうなると、競争手段は改革しかない。準則主義化ということは、自主的に改革ができるということを意味する。その代わりに自己責任となる。実際に、各大学がいろいろなことを始めたため、「設置バブル」が発生している。

月一回開催される大学設置審議会(以下、設置審)の運営委員会でも、毎回膨大な件数が議題に上がっているが、本学のように内部でルールを作り、設置審の代わりに学内で審査を行っているところは少ない。つまり、その大学が構想を立てて、カリキュラムを編成し、教員審査を行う能力を有していることが、自由化の前提になる。だとすると、文科省の設置審に代わり学内できちんとルールを作ることが大事になる。それを行った大学が、社会的にも信頼を得る。

とにかく現在、さまざまな大学、大学院が急増しているため、「いったい大学とは何か、大学院とは何か」ということが、あらためて問われるような時代になっている。

私立大学行政の変化

もう一つの大きな変化は、私立学校法の改正である。私立大学行政の変化であり、理事会機能、監事機能を明確化するとか、財務情報の公開が義務付けられている。この私立学校法の改正案は、すでに成立しており、来年四月から施行される。これは、一昨年の帝京大学事件に端を発して、学校法人のチェックが厳しくなってきたということである。

実際、学校法人の経営をチェックする「学校法人運営調査委員制度」では、この委員を増員するとともに公認会計士や弁護士を入れてチェック体制を厳しくしている。私もその一人で、年間二~三の大学を回るが、それらと比較すると本学はきちんと運営している。というのは、本学の場合、毎年のように新しい学部・学科や大学院を申請したため、大学設置・学校法人審議会学校法人部会でチェックされていることもあり、文科省からも高い評価を得ている。

学校法人会計の見直しは、会計処理の合理化・平明化、企業会計とのすり合わせ、および破綻学校法人の処理などが論点になっている。学校法人の在り方、破綻法人の扱いをめぐって、これも引き続き検討の対象になることが予想される。

こういうことを前提にすると、現在かつてない大変革が起こっており、しかもあっという間に法律が変わってしまう。国立大学の法人化や株式会社立の大学設置も、ほとんど時間的な余裕がないまま強引に進められた。個々の大学が対応することが、大変な時代になってきていると言える。

法政大学の改革

本学でも、こういう現象を見ながら、改革を継続しなければならない。つまり、一般に「設置バブル」現象が起こっているが、実際に中身も変わらなくてはいけない。それも、自己責任でやらなくてはいけない。従って、実体を伴って新しい教育ニーズに適応していくこと、それも短期的な流行に乗るということではなく、二十一世紀の趨勢をしっかり見すえながら、学部・学科の再編を進めていく必要がある。

これから問題になるのが大学院の拡充である。特に、高度職業人養成を目的に専門職大学院という制度ができたが、まだ日本社会にきちんと定着したわけではない。制度的に変わっていく可能性があるが、私立大学が生き残ること、特に歴史の古い大規模大学が生き残っていく場合、高度職業人養成が重要なターゲットになる。

もう一つ、アメリカ研究所の活用がある。貿易の自由化を推進する国際機関であるWTOが、「高等教育サービスの自由化」をめぐり規制を行っている国に自由化を要求している。また、OECDやユネスコが、国際的な大学の展開という観点から制度的な整備を行うべきとの提言をしている。そうなると、質保証機関の国際的なネットワークとか、国際的な評価基準を作ろうということになる。

それで、文科省内の協力者会議での議論では、大学の進出が国境を越えてしまっている点、e-learningが拡大し大学教育が国境を越えている点から、いったい日本の大学はどの程度グローバル化に対応しているのかという話になった。このため、文科省私学部でもグローバルな展開をしている大学を調査することになり、本年二月に本学アメリカ研究所の視察を行っている。結果は、非常に評価が高かった。

大学間競争が国境を越えた競争にすでに入ってしまっているため、今後は、アメリカ研究所の活用がキーになる。特に、専門職大学院はそうなるだろう。すでに、遠隔授業を始めているわけだから、例えばビジネススクールでアメリカのビジネススクールとデュアルディグリープログラム(二重学位)を開発することも考えられる。

今夏、付属校生十六人をアメリカに派遣し、英語でITを学ぶという実験を始めることにも注目したい。英語で数学を教えることも準備しているとか、バーチャルで行う授業が活発化すれば、付属高校のセールスポイントが出てくる。ひいては、大学の質の向上にもつながる。そういう意味で、アメリカ研究所の本格的な活用が、他大学にない強みを持ち始めたと言える。

  1. Managerial Accounting
    2007.04.21/06.02
  2. Financial Decisions
    2007.06.09/07.28
  3. Organization and Management
    2007.08.04/09.22