シンポジウム「E-時代を展望する」を終えて

徳安彰 所長
徳安彰(社会学部教授/IT研究センター運営委員:2001年当時)

本誌4~5頁では、法政大学情報技術(IT)研究センター・法政大学アメリカ研究所開設記念シンポジウム「E-時代を展望する」の模様を写真で紹介していますが、ここでは、その概要をレポートしていただきました。併せてご覧ください。

六月四日に開催された法政大学情報技術(IT)研究センターと法政大学アメリカ研究所の開設記念シンポジウム「E―時代を展望する」の模様を報告したい。

まず清成忠男総長が挨拶に立ち、グローバリゼーションとIT革命の進行によって国境を越えた大学間競争が始まった21世紀の戦略として、「開かれた法政21」の理念のもとでIT研究センターとアメリカ研究所を設置した経緯を説明した。IT技術の研究や遠隔教育(バーチャル・ユニバーシティ)体制の構築をはじめとする研究所プロジェクトの概要を紹介し、産官学協同の必要性を訴えた。

基調講演に入り、はじめに矢内氏が、雑誌『ぴあ』やチケットぴあ事業展開を経験してきたをふまえ、新たな電子チケット販売事業の試みを紹介しながら、ネットバブル崩壊後のネットビジネスの未来を展望した。「感動のライフライン」をキーワードに、生活を精神的に豊かにする「遊び情報」の提供の重要性を強調し、個人のパソコン利用だけでなく、コンビニや携帯電話という日本で独自に発達したインフラを利用する可能性を示唆した。

次に中川氏が、シリコンバレーにあるスタンフォード大学で客員としてすごした体験をふまえ、アメリカと日本のITベンチャーの実態を比較、紹介した。アメリカでは、産学連携が進んでいること、ベンチャーキャピタルによる経営支援や銀行の融資の体制が整備されていること、アジア系エンジニアの台頭が著しいことなどをあげる一方、日本でも遅ればせながら徐々に規制緩和が進行して、ITベンチャーの可能性が生まれていることを指摘した。

最後に品川氏が、政府のe-japan計画をふまえて、全人類的課題としてのデジタルオポチュニティの享受、デジタルデバイドの解消のための「配当」のあり方を論じた。女性、障害者、中小企業など、弱者のエンパワーメントの重要性を指摘しつつ、他方でリナックスなどに典型的に見られるオープンソースの思想、コピーライトと対照されるコピーレフトの思想などにもとづく、自由な情報流通の確保されたデジタル社会の可能性を展望した。

休憩をはさんで、後半のパネルディスカッションでは、まず守屋氏とロビー助教授が教育にかんして論じた。守屋氏は、IT技術を活用した学習指導(e-learning)の重要性を指摘し、現在の教室での一斉授業の風景が一変するような変革とそのための財政支援の必要性を強調した。ロビー助教授は、「マスレット」という数学教育のためのウェブコンテンツのデモを交えながら、オンラインジャーナルにおけるウェブコンテンツの集積と査読による品質保証を行う体制づくりの実例を紹介した。

次に稲増教授と司教授が文化について論じた。稲増教授は、メディア文化論の観点から、高校で情報科が必修となり、ファミコン世代が大学生になる時代の情報リテラシーの変化を指摘すると同時に、ネットオークションの相互評価システムを例に、合意にもとづく社会性のあるネットワーク形成の可能性を展望した。司教授は、美術家の観点から、デジタル技術を利用した壁画制作でも最終的に人間が壁にペイントしなければならないこと、あるSF作品で核戦争後の地球を修復するためのカプセルの中身が一粒の麦だったという話を紹介しつつ、デジタル時代における人間性や有機性というアナログ的なものの意義を強調した。

次に八名教授が情報通信技術について論じた。インターネットに接続したホストコンピュータ数の指数関数的増加のデータを示しつつ、ネット端末の複数利用が日常化していることを指摘し、またブロードバンド化を背景としたアメリカの教育ネットワーク形成の現状を報告した。

前半で基調講演を行った中川氏と品川氏もそれぞれ補足発言を行った。中川氏は、現在がインターネットのカンブリア紀と呼ばれる種の爆発的な発生期にあたり、これから淘汰による進化が始まると述べた。品川氏は、IT技術にかんする標準化への取り組みの重要性を指摘し、またデジタル製品の価格低下による経済指標の変化を「デジフレーション」と呼んで、経済統計の全面的な見直しの必要性を示唆した。

以上の発言をふまえて、パネラーの間でさらに意見交換がなされ、オープンソースの重要性、個人の力の増大、情報発信者としての自覚の必要性などの指摘が相次いだ。最後に司会の廣瀬教授が、これからのデジタル社会ではIT技術を積極的に利用する中で知恵をつけるべきであり、オープンで相互的な関係の中で情報が伝達されるべきであると総括し、IT研究センターとアメリカ研究所もそのようなデジタル社会の一員として活動したいと抱負を述べた。

「E―時代を展望する」というタイトルにふさわしく、よりよい豊かなデジタルネットワーク社会を築いていくための論点が、産業、文化、教育など多岐に渡って論じられたシンポジウムだった。これらの論点は、廣瀬教授が指摘したように、IT研究センターとアメリカ研究所にとっての課題の鳥瞰図にもなっており、これから大いに内実をともなった研究を進展させることが期待される。

プログラム / 2001年6月4日14時~/市ケ谷キャンパス/ボアソナード・タワー26階スカイホール

14時 開会 総合司会:徳安 彰(法政大学社会学部教授/法政大学IT研究センター運営委員)
挨拶 法政大学総長 清成忠男
基調講演 「ネットビジネスの未来を語る」矢内 廣(ぴあ株式会社代表取締役社長)
「最新日米ITベンチャー論」中川勝弘(東京海上キャピタル株式会社取締役会長、元通商産業審議官/法政大学IT研究センター顧問)
「デジタル社会の配当」品川萬里(財団法人日本ITU協会理事長、元郵政審議官/法政大学IT研究センター顧問)
15時 休憩
15時30分 パネルディスカッション 「Eの時代―文化・産業・教育を語る」
守屋尚(社団法人日本教育工学振興会専務取締役/法政大学IT研究センター学術担当教授)
トーマス・W・ロビー(カリフォルニア州立大学ヘイワード校助教授/法政大学IT研究センター学術担当助教授)
稲増龍夫(法政大学社会学部教授)
司 修(法政大学国際文化学部教授)
八名和夫(法政大学工学部教授/法政大学アメリカ研究所副所長)
司会:廣瀬克哉(法政大学法学部教授/法政大学IT研究センター所員)
17時 閉会
  1. Managerial Accounting
    2007.04.21/06.02
  2. Financial Decisions
    2007.06.09/07.28
  3. Organization and Management
    2007.08.04/09.22