月刊法政11月号「法政大学のITへの取り組み」

常務理事
稲田太郎(工学部教授)

コンピューターはその出現以来、人間社会の諸活動に極めて大きな影響をもたらし、個人、社会の活動を著しく変化、発展させてきました。当初コンピューターは高速度で計算する機器として出発し、各種の複雑な系の数値解析などで威力を発揮し、科学技術の分野で画期的な成果を生み出しました。その後、より広い範囲における各種のデータを高速度で処理するシステムへと発展し、人間社会の諸活動に新しい変化をもたらしました。高等教育機関である大学において、以前は理工系学部だけで重視されていたコンピューター教育が、人文・社会系学部でも重要な教育とされるようになったことなどは、この変化を象徴的に示しているといえます。

しかしながら、特にこの数年コンピューター技術は、従来の高機能情報処理としての範囲を越え、全く新しいかつ大きな役割を担う技術として急速に展開しています。これは情報技術(Information Technology=IT)と総称されています。言い換えれば、コンピューター技術は、その出現以来新しい歴史を刻む第三の段階に突入していると言えます。このITは、人間個人のライフスタイルから社会の構造までも変える可能性を有しており、「IT革命」というフレーズが用いられる所以でもあります。このような変化に対して、我が国は、教育、産業、行政の多くの面での取り組みが遅れていると国際的にも批評されており、早急な対応が求められています。

本学は、我が国の大学の中では極めて早い時期の一九六四年に、コンピューターを中心設備とする計算センターを設置し、教育・研究への活用を本格的に開始しました。コンピューターの進歩、活用範囲の拡大に合わせて、市ケ谷・多摩・小金井の三キャンパスに「計算センター」を設置し、設備の整備を図るなど、教育・研究への支援を強化してきています。

さらに、教育・研究面におけるコンピューター活用の量的および質的変化に対応するために、一九九七年にはこれらセンターの研究部門を「計算科学センター」へ、教育支援部門を「総合情報センター」へと発展的に改組しました。あわせて、学内教育学術情報ネットワーク(学内LAN)、図書館情報ネットワーク、事務管理情報システムなどをすべて新しく構築しました。

特に、学内LANは、「Net2000」の愛称のもとで昨年から再設計を開始し、今年の夏に敷設工事を完了しました。ATM(Asynchronous Transfer Mode) 方式を採用した動画、音声情報を送配信する高機能化情報ネットワークシステムを搭載した学内LANが、十月から本格的に稼動しています(このシステムの概要については本誌九月号に紹介されています)。このような取り組みから、法政大学はコンピューター環境整備で先駆的大学の一つと評価されています。

しかし、すでに述べたように、コンピューターを取り巻く環境は、急速かつ大きく変化し、既設の組織の枠組みを越えた対応が必要になっています。本誌十月号で、総長が「法政大学における課題」について述べられています。課題の一つにIT革命への対応を掲げ、その具体的施策として、「情報技術(IT)研究センター」の設置と「アメリカ研究所」の設置構想について触れられています。本稿では、この二つの研究所について詳しく紹介したいと思います。

HURIC

一.法政大学情報技術(IT)研究センター
英文名:HOSEI-UNIVERSITY INFORMATION TECHNOLOGY RESEARCH CENTER(略称:HITEC)

我が国におけるITへの取り組みが遅れており、高等教育機関におけるIT分野の教育・研究面での重点的取り組みが求められていることはすでに述べました。これらの社会的要請に応えるために、本学では、学部教育として「情報科学部」を設置し、大学院教育として社会人向けの「ITプロフェッショナルコース」を工学研究科電気工学専攻修士課程に設置しました。

これらの新しいIT教育組織の設置理念をより高度に実現していくことや、国内外の大学、官公庁、地方自治体、産業界などと連携しながら、人文・社会科学系、医学・薬学・生物学系、理工学系などの各分野におけるITに関する教育・研究を推進し、国際的スケールでの遠隔教育を展開する基盤組織として、この研究センターを設置することとしました。また、この研究センターは、本学のエクステンション・カレッジにおけるIT分野の講座への支援も担っていくことになっています。

現在、この研究センターに関連する諸規程が整備され、それに基づいて運営委員会、所員会を開催し、事業計画などの立案とその具体化に向けた検討がなされています。現在進められている九段校舎の整備が完了する二〇〇一年三月には、この二階に研究センターを設置する予定で、本格的に稼働するのは、来年度からということになります。  この研究センターでは、学外者(顧問)で構成されるアドバイザリー委員会を設置し、中長期的施策、将来構想等に関する助言や提案、また運営などに関する点検、評価等を受けることにしています。

この顧問は、IT専門家をはじめ各種の分野における国内外の有識者の方々にお願いすることにしています。現在十三名の方にご協力いただいていますが、日本教育情報機器(株)代表取締役社長の河端照孝氏(一九六三年経営学部卒業)と、日本シスコシステムズ社代表取締役会長の松本孝利氏(一九六六年工学部電気工学科卒業)の二名の本学卒業生にも顧問をお願いしています。

研究センターでは、原則として各種助成金、受託研究など外部資金に基づく研究事業、あるいは収入を伴う教育事業を実施することとしており、二〇〇一年度は、次のような事業を実施するプロジェクトを編成することになっています。これらの事業はすべて、文部省等の助成制度の下で、あるいは地方自治体や民間企業などとの連携によって実施する予定です。


(一)バーチャルユニバーシテイの構築

今後我が国においても大学教育にインターネットを活用した遠隔教育が取り込まれることは必須であり、これへの対応を視野に入れて、大学の持つ機能をすべてネットワーク上に展開するシステム(バーチャルユニバーシテイ)を確立する。


(二)アメリカのIT産業集積に関する調査

アメリカのIT関連産業の集積地域(ワシントンDC、テキサス州、カリフォルニア州、他)を調査し、その発展メカニズムと支援策について研究し、我が国におけるIT関連産業の発展へ向けた提言を行う。この研究を実施する過程では、後述するアメリカ研究所が重要な役割を果たすことになる。


(三)中高校教育における情報教育モデルの構築

二〇〇三年度から導入される高等学校における情報教育のあり方について多面的に研究する。例えば、生徒がIT嫌いにならないためのカリキュラム、情報担当教諭に対する研修カリキュラム、情報教育モデルとシステム、その他に関する研究を実施する。この研究成果を、本学付属校をはじめ、本学周辺地域の中学・高校などを対象としながら社会へ提案する。

また、新しい大学院構想の実現に向けた支援を行い、若手研究者や社会人の教育への要請に応えようとしています。遠隔教育も視野に入れた新しい視点に立った大学教育モデルの立案等を行い、社会へ提案したり、一般社会人、あるいは地域住民を対象としたIT関連分野の研修会・講習会を開催するなど、社会に開かれた研究センターとしての役割を担っていきたいと考えています。

二.法政大学アメリカ研究所
英文名:HOSEI UNIVERSITY RESEARCH INSTITUTE, CALIFORNIA(略称:HURIC)

本学創立百二十周年記念事業の一環として、また、「開かれた法政21」のヴィジョンの具体的施策として、海外における教育・研究拠点の設置が計画されました。シリコンバレー分室を設置して現地調査を行うとともに、総長室プロジェクト(座長:武田洋工学部教授)を編成して基本構想について約二年間検討を重ねてきました。

このプロジェクトチームには、学内の関係教員のほか、学外からも委員としてご参加いただきました。また、特定なテーマについては、通産省、エネルギー庁、民間企業、他大学などの有識者の方々からご講演いただくなど、広い視野に立って検討しました。本年二月には、プロジェクトからの最終報告が行われ、これに基づいて、シリコンバレー分室をアメリカ研究所(仮称)設置準備室に改組し、具体的作業を開始しました。

アメリカで組織を運営するには現地の法人格を有することが必要ですが、本年四月に、California Corporate Numberおよび Employer Identification Numberを取得しました。研究所の公式名称については英文名の「HOSEI UNIVERSITY RESEARCH INSTITUTE, CALIFORNIA」とし、仮称であった日本名「法政大学アメリカ研究所」を正式名称としました。現在、この法人を、教育を実施する非営利法人(日本における学校法人に相当する)として認可を受けるために必要な手続きを進めているところです。

研究所のコアオフィスは、サンフランシスコ空港の南に位置し、シリコンバレーにも近い地域(Burlingame市)のビル(十九頁に掲載の写真)の一角に設置しています。このオフィスでは、民間企業との共同研究によるビジネス向けのソフト開発、日米間で各種の講義、会議等を、インターネットを活用して、リアルタイムで行うシステム開発に向けた予備実験が行われています。来年度には、IT研究センターとの連携によって、本格的実験が開始されるでしょう。

本年八月にはこの研究所を設置する法人の第一回理事会がコアオフィスで開催され、理事会および研究所の主要な構成が次表のように決定されました。本学からは、清成総長、小林尚登工学部教授、筆者の三名が理事会のメンバーとして参加しています。さらに、次の四名の方々が理事として参加されています。本学の経済学部を一九五五年に卒業され、現在サンフランシスコで会社を経営されている内田慶四郎氏、スタンフォード大学のB.Roth教授、シリコンバレーでIT分野のコンサルタント会社を経営し、日本でもこの分野で活躍されているW.E.Hall博士、元大学教授で、現在モントレーにあるInstitute of International Studyの理事を務められ、本学情報科学部の国井利泰教授の友人でもあるP.C.C.Wang博士の皆さんです。

また、研究所には、本学経済学部を一九六三年に卒業後、サンフランシスコで会計事務所を開設し活躍されたアメリカ会計の専門家奧竹一平氏、Stanford大学のビジネススクールを一九九八年に卒業された後、アメリカの民間企業に勤められた経験のある小宮善太郎氏、今年Iowa State 大学を卒業された塩川治奈氏の皆さんが活躍しています。また、東北大学工学部のご卒業で、現在San Francisco State 大学の大学院生の北島登氏が、ボランテイアで研究所の立ち上げにご尽力くださっています。

この研究所は、前述のIT研究センターと連携しながら、法政大学の教育・研究の一層の発展を支援する役割を担っています。現在、次のような事業計画が検討されています。

教育分野

【大学院教育】
国際基準を満たす新しい大学院教育課程のモデルの構築・提案、実施に際しての協力


【学部教育】
IT分野、先端技術分野などに関する遠隔講義、演習、特別講義のモデルの構築・提案、実施に際しての協力


【中・高校教育】
日本の中・高校生向けサマースクールの企画・運営、在米日系の中・高校生徒への教育支援モデルの構築


【社会への対応】
日本・アジア文化に関する情報の提供、講演会等の開催、IT分野、先端技術分野などに関するシンポジウム、 研修会等の開催

研究分野

【IT( Information Technology )系】
デジタルユニバーシティの構築、各種ソフト開発、計算科学とその応用、ITバイオ、他


【EB( Electronic Business )系】
計算ファイナンス、デジタル産業政策、デジタル知的所有権、他


【EE( Electronic Engineering )系】
デジタル、アナログ電子回路設計・開発、情報通信用デバイス技術開発、ナノデバイス技術開発、知能ロボット技術開発、他。

研究所の正式なオープンは、来年の初めを予定しています。研究所の設立は社会的にも期待されており、現在研究所に対して、民間企業から数件の寄付の申し出がなされています。大規模な固定的投資は避け、外部資金の積極的導入を図り、フローで運営する予定です。

今日、我が国の大学の教育・研究において国際的基準を満たすことが極めて重要になっています。これなくしては、高等教育機関としての存在すら危ういとさえいわれています。法政大学が一層発展するために、IT研究センターとアメリカ研究所がその一翼を担うことが強く期待されています。


2000年4月8日のボアソナード・タワー竣工式には、 シリコンバレーの小林尚登教授から市ヶ谷キャンパスへ、
デジタル回線を通してリアルタイムで祝辞が届けられた。

アメリカ研究所のコアオフィスでは現在、来年度の本格稼動に向けて、着々と準備が進められている。

法政大学アメリカ研究所の組織

Board:
Chairman of the Board
  • Tadao Kiyonari(清成忠男)
  • Members of the Board
  • Taroh Inada,PhD(稲田太郎)
  • Hisato Kobayashi,PhD(小林尚登)
  • Keishirou Uchida(内田慶四郎)
  • Bernard Roth,PhD
  • W.Earl Hall,Jr.,PhD
  • Peter C.C.Wang,PhD


Office:
President
  • Hisato Kobayashi,PhD(小林尚登)
Secretary
  • Zentaro Komiya(小宮善太郎)
Treasurer
  • Ippei Okkutake(奥竹一平)
Staff
  • Haruna Shiokawa(塩川治奈)
  • (part-time)Noboru B.Kitajima(北島 登)


※ 去る8月、本学から清成総長、稲田理事、小林教授が 参加して行われたアメリカ研究所第一回理事会を終えて。
  1. Managerial Accounting
    2007.04.21/06.02
  2. Financial Decisions
    2007.06.09/07.28
  3. Organization and Management
    2007.08.04/09.22