総長が語る 法政大学の課題

清成忠男 総長 清成忠男 総長

一、大学を取り巻く環境の変化

二十一世紀を目前にして、大学を取り巻く環境の変化はきわめて著しい。十八歳人口の減少は依然として続く。伝統的学生の志願者は今後も減少傾向をたどる。国立大学の独立行政法人化も確実に進む見通しである。新しい次元での大学間競争が予想される。しかも、IT革命の進展は、国境を超えた大学間競争の激化をもたらす。

こうした状況下で、経営破綻に陥る私立大学が出始めている。護送船団方式の行政も終わりを告げつつある。大学運営に自己責任が要求されているのである。

他方、新しい教育ニーズも多様に拡大しつつある。IT、福祉、環境などの分野における専門人材、グローバルな社会において活躍しうる人材などが絶対的に不足している。同時に、生涯学習社会が到来している。学問の進歩と社会の急速な変化が新しい学習ニーズを継続的に拡大させている。もはや人生の特定の時期においてのみ学習するという時代は終わりつつある。生涯にわたって学習しなければならないという社会が到来しているのである。このことは、大学のあり方が変わりつつあることを意味している。

大学が存続・発展するためには、教学改革の継続と教育研究の質的向上が必要であるとともに、学生の学習ニーズに対する教職員の的確な対応が不可欠である。

二、大学のヴィジョンと教育理念

今日のような歴史的変革期には、どのような組織においても、ヴィジョンが不可欠である。 法政大学では、「開かれた法政21」というヴィジョンの下、三つのキーコンセプトを提示してきた。

(一) グローバル化への対応
(二) 社会との交流
(三) 生涯教育の推進

がそれである。

教育・研究を広く外に開くことを意図している。教育対象の多様化を図るとともに、研究成果を社会に還元するのである。こうしたヴィジョンの実現には、学部、大学院、エクステンション・カレッジ、研究所など全学挙げて対応する。

教育理念としては、自立型人材の自己形成の支援を重視している。ここでいう自立型人材とは、組織依存型人間とは対照的に、自ら考え、判断し、主体的に意志決定を行う人材をいう。当然、自己責任も要求される。在学中にキャリアプランを策定し、自ら進路選択を行うことが望ましい。そのためには、「働くとはどういうことか」(勤労観)と「仕事とはどういうことか」(職業観)を学生のうちに的確に身につけておく必要がある。

その手段としては、オフキャンパスの就労体験が有効である。ヴィジョンにおいて「社会との交流」を重視しているのは、そのためでもある。企業、行政、NPOなどでのフィールドスタディやインターンシップ、あるいはボランティア活動が重要な意味をもつ。こうした活動によって、今日の若者に希薄なパブリック・マインドも醸成されよう。

もっとも、キャリアプランの策定は、必ずしも容易ではない。大学としては、エクステンション・カレッジにキャリア・マネジメント・コースを設け、カウンセリングをも行う所存である。

三、教学改革の継続

新しい多様な教育ニーズに積極的に対応するためには、教学改革の継続が不可避である。教学改革はこの数年加速している。

法政大学では、一九五九年に経営学部が設立されて以来、四十年間新学部の設立は実現しなかった。この間、三回にわたり新学部の設置を文部省に申請したが、学内の合意形成に至らず、いずれも申請を取り下げた。こうした失敗の経験を踏まえ、学内の合意形成に努め、昨年には国際文化学部と人間環境学部、今年は現代福祉学部と情報科学部が発足し、十学部体制となった。総合大学としての魅力を一段と増したといえよう。

新学部効果は、きわめて大きい。入試の志願者増に大きく寄与したのである。別表は志願者数がピークであった一九九二年度と今年度の志願者数を対比したものである。今年度の志願者数が四万人以上の大学は十一校あるが、そのうち十校までがピーク時から志願者数を減らしている。法政大学だけがプラスを記録している。

大学別入試志願者数増減率比較表
(2000年度の志願者数4万人以上の大学)
大学名 2000年度(人) 1992年度(人) 増減率(%)※
法政大学 73,610 72,767 1.2
東京理科大学 49,919 50,751 -1.6
立命館大学 93,000 100,032 -7.0
東洋大学 60,249 70,653 -14.7
関西大学 70,468 90,650 -22.3
明治大学 77,935 102,808 -24.2
中央大学 54,476 79,167 -31.2
近畿大学 52,594 77,373 -32.0
早稲田大学 105,228 157,847 -33.3
慶応義塾大学 42,356 63,697 -33.5
日本大学 87,276 147,887 -41.0
※ 1992年度に対する2000年度の増減率を示す。

全国的に見て減少率の平均は約二五%であるが、日本大学、慶応義塾大学、早稲田大学などは平均以上の減少を示している。法政大学は四つの新学部で一万二三九二人の志願者を集めている。新学部が存在しなかったら、法政大学も約十八%の減少を示したところである。四学部の設置が改革イメージを強め、既存学部でも志願者を確保したのである。なお、新しい四学部の一般入試における平均倍率は、約二十五倍であった。

また、今年四月からは情報科学部の教員が担当する修士課程のITプロフェショナル・コースが市ケ谷キャンパスでスタートした。このコースは、「一年制修士課程」「サテライトキャンパス」という二点でもわが国第一号である。定員四十名のところ、志願者数は百七十名であった。

今後の教学改革の焦点は、既存学部の改革と大学院の拡充に移る。それだけに、学部主導の改革が期待される。すでに、来年四月からは経済学部に国際経済学科が設置されることが認可されている。第二部(夜間)改革も文学部のイニシアティブで独自な改革が検討されている。大学院も社会学部を基礎にした政策科学専攻が来年四月発足の予定で申請中である。また、新学部を基礎とする大学院の設置も準備段階に入っている。ロースクール(法科大学院)にも挑戦することになろう。

学部や大学院で直ちに対応できない分野については、エクステンション・カレッジで手がけることになる。

なお、教学改革において新しい試みがなされた場合、教員の負担増は避け、教育の質を確保する所存である。

四、資源配分の方向

法政大学は、量的拡大路線はとらない。むしろ、教育・研究の質的向上を選択すべきであると考えている。そして、二十一世紀に備えて、中長期的な視点からの資源配分が必要であろう。

大手私立大学における過去の資源配分は、右肩上がりの収入増という状況下で、人件費に傾斜していた。賃金、退職金、年金を合算すると、一人当たりの人件費はかなり高い水準にある。法政大学も例外ではない。反面で、施設の老朽化が進んでいる。市ケ谷キャンパスや小金井キャンパスの一部、付属校の施設の老朽化は否定できない。とりわけ市ケ谷キャンパスにおける研究室は、他大学に例を見ないほど劣悪な状況にあった。この点は、ボアソナード・タワーの完成によって解決した。

さて、当面必要なのは、二十一世紀を展望した資源配分である。教学改革のための投資は、依然として必要である。教育・研究のための経常費支出を軽視することはできないが、教学改革は続けなければならない。

教員増のみならず、施設やITへの投資が必要である。マスプロ教育を是正するためには、教員増は不可欠である。また、都市型大学の優位性を発揮するためには、施設面でも都心立地を重視する必要がある。市ケ谷キャンパスの第Ⅱ期工事も視野に入れておかなければならない。

この度、九段校舎(千代田区九段北)を取得したが、それによって大学会館としての機能を確保するとともに、法人部門の一体化を進める。市ケ谷地区の事務の全体的見直しによる合理化が可能になる。現在、組織の機能と空間的配量の見直しを検討中である。そして、「Net2000」というIT投資で三キャンパス間のネットワークをつなぐ。

こうした状況下で、資金需要は依然として大きい。だが、収入には限界がある。わが国の私立大学における収入の特徴は、学費への依存性が強いという点にある。国庫助成の比率はこれまでも小さいが、国の赤字財政を考慮すると、今後とも増加に期待をかけるわけにはいかない。したがって、コスト削減はやむを得ない。とくに経常支出に含められる人件費比率は高いから、これを引き下げざるを得ない。教員増は必要であるし、給与のベースダウンを避けるとすれば定年延長に関わる問題の見直しを進めなければならない。収入増を図るためには、エクステンション・カレッジの拡充と研究資金の外部からの導入を進めるということになろう。

五、IT革命への対応

大学においても、IT革命への対応は不可避である。IT革命は、どの分野、どの産業においても進展する。教育においても例外ではない。IT革命は、教育のあり方を根底から変える可能性を有している。

そこで、大学としての「IT事業モデル」を構想しておく必要がある。法政大学では、組織として総合情報センターとIT研究センターを有し、インフラとしては「Net2000」を用意しつつある。エクステンション・カレッジにおいても、短期間のIT教育やITベンチャーを支援する事業を展開している。

さて、教育面におけるITの活用については、大学審議会「グローバル時代に求められる高等教育の在り方について」(審議の概要、平成十二年六月三〇日)は次のように指摘している。

「通学制の大学においては、直接の対面授業を基本としており、これに相当する教育効果を有すると認められる一定の態様の遠隔授業については、卒業に要する単位のうち六〇単位を限度に単位取得が認められている。また、大学院においては特段の限度は無く遠隔授業による単位取得が認められている。通学制においても、通信制の場合と同様の条件の下で、インターネットを活用した授業が、直接の対面授業と同様の教育効果が確保されると評価される場合には、これを遠隔授業として位置付け、単位修得を可能とする方向で見直しを行うことが適当である」。

わが国においても、少数ではあるがIT活用の通信制大学や大学院が発足している。通学制においてもITの活用が進められている。だが、アメリカにおいては、バーチャル・ユニバーシティは広範に展開している。インターネットで学士等の学位を取れるコースを有している大学はすでに百三十六校に達しているし、MBA(経営学修士)を取れる大学も百校に及んでいる。もちろん、外国からも受講できる。

もっとも、大学であるからには、良好な師弟関係や友人関係の形成が不可欠である。したがって、スクーリングによる緊密な人間関係の形成が必要であり、まさにバーチャルとリアルの融合で大学が成立する。同時に、バーチャル・ユニバーシティは国境を超えてしまうから、グローバルなレベルで大学間の競争が生ずる。それだけに、国境を超えた大学間の「戦略的提携」も生ずる。提携の前提としては、グローバルに通用する教育・研究の質が要求される。そうしたレベルへの到達が法政大学の課題である。

このように、教育におけるITの活用が不可避であり、新しい教育方法や教材の開発が急がれる。IT専門技術者の教育も重視しなければならない。ITの研究開発も依然として重要な課題である。こうした課題を解決するために、今年度からIT研究センターを発足させた。研究面では外部資金の導入を進め、研究領域の拡大を意図している。

このIT研究センターと連携する一組織として、来年にはアメリカ研究所をスタートさせる予定である。IT先進国であるアメリカにおいてIT関連の研究を行うとともに、ITを活用した教育やインターンシップを展開する予定である。各学部・大学院とリンクする現地での複合大学院なども検討している。固定投資を避け、外部資金の導入を図り、フローで運営する予定である。立地は、サンフランシスコ空港の南方、シリコンバレーの近くを選択した。現在、連邦政府に非営利の教育法人を申請中である。

むすび

今日の法政大学は、百二十年の歴史の中で、教職員や学生が築いてきたものである。大学は、時間を超えた共同体であると言えよう。われわれは、先人の遺産を引き継ぎ、これに新しい価値を加え、次の世代に遺す義務がある。困難であっても、現在山積している課題を解決しなければならない。

  1. Managerial Accounting
    2007.04.21/06.02
  2. Financial Decisions
    2007.06.09/07.28
  3. Organization and Management
    2007.08.04/09.22